今回は、【夫と妻がともに事業を営んでいる場合で、かつ夫独自の副業があったケースについて】解説します。
まず事例をご紹介します。
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夫と妻は婚姻後、共にビジネスを行っており、個人事業として小売業を営んでいました。夫の趣味は投資であり、主に不動産投資を行っていました。不動産投資に関しては夫が夫の判断で行っており、妻には原則として立ち入らせず、せいぜい会話でどこの物件を買ったとか、管理が大変といった事情を話していたにすぎませんでした。
2人はほどなく仲が悪くなり離婚を決意しました。
預貯金は夫に1億程度の預貯金と3億円の不動産がありました。夫にとって預貯金は不動産管理のための預貯金という認識でした。
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さて、こういった事例で何が問題となるのでしょうか。
夫は、夫名義の不動産及び不動産管理のための資金は全て夫が独自で行った事業のための資産であり、分与対象ではない、と主張することが考えられ、妻は当然すべて分与対象となる、と主張することが考えられます。
結論として、不動産及び預貯金はすべて分与対象となりえます。
ポイントは、財産の区別及び妻の寄与度、そして本業との利益の程度との関係です。
財産分与は互いの財産の形成に互いの寄与がある、という前提から認められる権利です。そうだとすると、その寄与度に応じて分与対象となりうるか、なるとしてその程度が問題となります。
そこで、例えば、不動産投資の内容として家計とは別口座で、かつ経費等もその口座を使用しており、かつ不動産投資については独自で行っていた事情があれば財産分与対象ではないという理屈は成り立ちえます。
一方で、家計との区別があいまいであり、不動産業が個人で行っている規模の小さいものであるということが認められれば分与対象と考える可能性は高まります。
ただ、妻の貢献の程度が小さいという状況であれば、分与割合を小さくする方向での合意形成が望まれるでしょう。
実際の紛争においては、分与対象となりえないというリスクを考慮し、分与割合を下げる方向で交渉を行っていくことも考えられます。それでも相手方がかたくなに認めないということであれば判決を見据えた訴訟活動が望まれるところです。
そもそも分与対象となりうるのか、それらを立証する証拠はどの程度あるのか、証拠として何が望まれるか、紛争が生じる前に調査できる部分はないか、等事前に対策を考えるべき事件であるといえます。離婚の話し合いを具体的に始める前に、離婚問題に精通した弁護士に相談のうえ進めるべきでしょう。