今回は、【夫が経営する会社の株式を分与対象として株価を算定した】ケースについて解説します。
夫が会社を経営していて、その会社に財産が蓄積されていった場合にその財産を分けてもらうべきだと考えるのは自然なことだと思います。
しかし、原則として法人の財産は財産分与の対象ではありません。そうだとすると、夫婦が協力して築いた会社の財産は分与の対象外となりそうです。では、会社で築いた財産が財産分与の対象には一切ならないのかというと、そんなことはありません。
会社の株式は個人が持つものであり、その株式を夫が持っている場合、その株式については財産分与の対象になりうるものです。
では、どういったケースにおいて株式が財産分与の対象となるかですが、
- 株式が特有財産であるケース
具体的には、株式が親からの相続で得たものである場合や、婚姻前に株式を取得した場合です。こちらは特有財産ですから原則として財産分与の対象外です。
- 株式が共有財産であるケース
具体的には、株式会社を経営しだしたのが婚姻後であるケースです。こちらは株式が分与の対象です。
- 特有財産と共有財産が混在しているケース
具体的には、婚姻前に夫が蓄えた預貯金を出資して株式会社を設立したが、婚姻後に増資がなされていて、その比率が明確には分からない等といったケースです。
等が考えられます。
では、財産分与の対象となるとして、その株式をいくらと考えるのでしょうか。
上場株式であれば日々値段がついていますので簡単ですが、基本的に問題になるのは非上場株式の場合です。これらは値段が一見して分かりません。
そこで、評価の方法が問題となってきます。
まずここにおいて裁判例で確立した基準はありません。
裁判官の裁量にゆだねられています。株式の評価方法はおおむね純資産価額方式、類似業種比準価額方式、これらの併用、配当還元方式、収益還元方式、DCF法などがあります。どれが採用されるかは流動的です。
純資産価額方式は、単純に貸借対照表上の純資産を株式数で割った形式です。最も簡易ですが、会社の成長性等を無視する点で正確に株価を反映していることは多くはないでしょう。早期解決の際には有用ですが、その戦略でいくべきかについては慎重に判断する必要があるでしょう。
類似業種比準価額方式は、上場している類似会社と比較して算出する方式で、純資産価額方式よりは既に時価がついているものと比較するので正確に株価を反映していると考えられますが、規模が似ている会社を探すのが困難でしょう。
配当還元方式は、一年間の配当金額を10%の利率で還元して元本である株式の価額を評価する方法のことです。1株当たりの年配当金額は、直前期末以前2年間の配当金額の平均金額により算出します。また1株当たりの年配当金額を算出する際には、1株当たりの資本金の額を50円とした場合の発行済株式数をもとに計算します。なお、配当をしていない会社の場合は、1株当たりの年配当金額を、2円50銭と仮定して計算を行うこととなります。
収益還元方式は、事業計画に基づいて予想した各年度の予想利益から、将来どのくらい収益を獲得できるかを1株あたりの株価に反映させて株式価値を算定する方法です。
DCF(Discounted Cash-Flow)法とは、会社が将来生み出すであろうフリーキャッシュフローの総合計を現在価値に割り引いて、株価を算定する方法です。M&Aにおいて最も使用される方式です。
どの方式にもメリットやデメリットがあり、どれを選択するかについては具体的な事情も含めて適切な方式を選択することが必要となるでしょう。非常に争いが生じやすい分野であり、会計士等と連携しつつ進めていくべき分野であるといえるでしょう。
通常の争いとしては、自ら計算するか、税理士・会計士等に依頼して株式の評価をします。当然高く主張するのは請求者で、安く主張するのは被請求者でしょう。
裁判所は両当事者のうちどちらかの値段を採用する、もしくは中間的な金額を採用することになります。
なお、裁判所が裁判所の判断で鑑定をすることはほとんどありません。
また裁判例も多くはないです。
参考ですが、医療法人の出資について、純資産価額に0,7を乗じた金額を評価額とした裁判例があります。この裁判例は、医療法人の将来的な発展が流動的であるという点をもって7割としていました。